医療ニュース⑭
2016.02.18
◆「地域包括ケアシステムの構築が診療報酬改定の目標」
診療報酬改定で塩崎厚労相が記者会見
――厚生労働省
塩崎恭久厚生労働大臣は、2月12日の閣議後記者会見で、2月10日に答申され、4月から実施される2016年度の診療報酬改定について、今回の改正の狙いは「地域包括ケアシステムの構築が、今回(改定)の目指すところ」と話した。
2016年度診療報酬改定の最重要ポイントは、地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化と連携にある。入院医療の目玉は7対1入院基本料の算定要件の厳格化で、病棟の種別ごとに適切な患者像を評価し、不適切な場合は評価を見直す。患者像を表す「重症度、医療・看護必要度(以降、重症度)」に新設の「C項目」などを追加し、対象患者を拡大した上で、算定病棟における該当患者の基準を15%から25%に引き上げる。
ただし、2016年3月現在の届出機関で、200床未満の病院は、2018年3月までは23%の基準が適用される。このほか大きな影響を受けるのが保険薬局。16年度の診療報酬改定は「かかりつけ薬剤師・薬局」の評価が目玉になっていて、大病院周辺の大型の「門前薬局」に対しては従来以上に締め付けを強化する。薬という「対物」の業務よりも、患者への服薬指導という「対人業務」を評価するのが基本的考え方となっている。
塩崎厚労相は、個別的な事項についても触れた。主な内容は次の通り。
● 入院については、「患者の重症度などを適切に評価し、退院する際も、スムーズに退院できるようにする」。
● 外来については、「かかりつけ医機能をいっそう強化し、その実効性を高めるため、紹介状なしに大病院を受診する場合の定額負担を設ける」。
● 調剤については、「かかりつけ薬剤師・かかりつけ薬局を進めるために、調剤報酬を抜本的に見直し、(大病院周囲にある門前薬局を念頭に)病院前の景色を変える」。
● 小児がんや、がん、認知症、救急医療などについては、「充実する方向で取り組みを進める」。
診療報酬改定(答申)について、厚労相の発言は次の通り。
(代表記者質問)
2月10日水曜日に来年度の診療報酬改定の答申が行われました。大臣としての全体の受け止めをお願いいたします。
(大臣)
今回の診療報酬改定の目指すところは、地域包括ケアシステムを構築するということであり、また、質が高くて効率的な医療を提供できる体制を作っていくというのが大きな目標であったわけでありまして、入院、外来、調剤などについてそれぞれ目標にふさわしいだけの中身のある改定を行おうということでやってまいりました。
入院については、重症度に応じて対応していく体制を作っていくということで、患者の重症度などの適切な評価を行うということ、退院するにあたってもしっかりとサポートしながらスムーズな退院ができるようにするということ、外来については、「かかりつけ医機能」を一層強化し、一方で、実効性を高めるよう大病院との機能分化を進めるために、紹介状が無く大病院へ直接診療で行かれ、受診した場合の定額負担というのを設けております。
「かかりつけ医」を進めるためのプライマリーケアを強化するという意味での定額負担ということであります。さらに、調剤の関係では、患者本位の医薬分業を進めるということで、名実共に一元的・継続的な薬歴管理と指導ができるような「かかりつけ薬剤師」、「かかりつけ薬局」を進めるため、調剤報酬は抜本的に見直そうではないかということで、病院前の景色を変えるということを申し上げてきてまいりましたが、それにふさわしいものにしたいと思っております。
小児や、がん、認知症、救急医療などについては、充実するという方向での取組を行っております。この4月から施行されるわけでありますので、それに向けてしっかりと体制を整えていきたいと思います。
◆看護必要度の基準に厳しい声、検証して必要なら見直しも
診療報酬答申で日医会長、四病協会長らが記者会見
――中央社会保険医療協議会
2016年度の診療報酬改定の議論を続開していた中央社会保険医療協議会(中医協)は、2月10日に塩崎厚労相に答申し、事実上審議は終えた。これにより関係医療団体等による「答申検証」が始まる。10日に日本医師会(日医)と四病院団体協議会(四病協)による合同記者会見が行われた。壇上には日医・横倉義武会長、日本病院会・堺恒夫会長、全日本病院協会・西澤寛俊会長。
記者会見を総括すると、「「重症度、医療・看護必要度」(「看護必要度」に統一)の基準が妥当か否か厳しくなった」とする声が異口同音に相次いだ。次いで「看護必要度の影響は検証して必要という反響に応じて見直しも辞さない」とする「早期検証待望論」が上がった。
横倉義武会長(日医)は、16年度診療報酬改定のポイントを5点あげた。(1)かかりつけ医のさらなる評価(2)在宅医療の推進(3)入院の機能分化(4)医療技術の評価(5)医薬品の適正使用。5点に通貫するのは「今後、地域包括ケアシステムを推進していく過程で、地域の医師会と連携協力していくことで地域医療を守ることが(日医の)使命」と基本的姿勢を強調した。
中医協内の議論では、1月13日の総会で、日医の「7対1入院基本料の算定要件の見直し」に関して、支払側から「平均在院日数の見直し」も含めるべきと主張したことに対して、診療側は「平均在院日数の短縮は限界を超えており、医療の姿をゆがめている。届出病床数は減っていなくても、病床稼働率は減っており、実質的には減少している」と反論し対立している。
また、「入院基本料の病棟群単位での選択制導入」についても、支払側(健保連)が7対1要件の見直し内容が決まらない状況のまま同時並行的に議論することへの慎重姿勢を改めて示したのに対して、中川俊男日医副会長が「医療経済実態調査でも7対1病院の赤字幅が拡大している。病棟群単位は患者ニーズに応える医療機関としての一つの対応策だ」と述べるなど、意見の隔たりは埋まらなかった。
「整理(案)」(平成28年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理(案)」)の文修正について平均在院日数の部分については、文言は修正せず、「議論は消滅しておらず、今後中医協で議論すること」「1月22日開催の公聴会で支払側より指摘すること」を条件として了承することとし、「整理(案)」は現時点での骨子とされ、パブリックコメントにかけられることになった、という経緯がある。
「整理(案)」には、その他、「地域包括ケア病棟入院料の包括範囲の見直し」「入院中の他医療機関受診時の減算の緩和」「地域包括診療料又は地域包括診療加算の対象患者の拡大」「院内処方における後発医薬品の使用促進の取り組み評価」「ニコチン依存症管理料の要件緩和」「一定枚数を超えて処方する湿布薬の理由の記載」などが記載されている。
なお同会長は今年の「新年所感」でも診療報酬改定に触れている。時期は平成28年度予算編成の大詰めを迎えているタイミングだったが、「医療における適切な財源確保に向けて」と題する所感を述べ、「診療報酬をプラス改定とすることを強く望む」とする声明を掲げていた。
「平成28年度診療報酬改定に当たり、3年間で1・5兆円の目安については柔軟に対応し、必要な財源を確保するよう求めていく。医療を取り巻く環境が非常に厳しい状況に置かれている中で、今回、診療報酬のマイナス改定を行うことになれば、医療崩壊の再来を招くことになる。政府は必要財源を確保し、診療報酬をプラス改定とすることを強く望む」と結論付けた。
◆「パニック値の緊急連絡の遅れ」―2件発生情報 発表
日本医療機能評価機構/医療事故情報収集等事業
――日本医療機能評価機構
日本医療機能評価機構は2月15日、医療安全情報No.111で、「パニック値の緊急連絡の遅れ」に関する情報を公表した。評価機構は、2012年1月1日~2015年12月31日の期間に、「医師にパニック値の緊急連絡が遅れた事例が2件報告されている」としている。
パニック値とは、医学的な経験から決められた値で、積極的に治療を行うべき領域のことを指す。たとえば、検査値が、検査項目=グルコース50mg/dL以下、500mg/dL以上、検査項目=血小板数20×10³/μL以下、カリウム2.5mEq/L以下など。
今回の事例では、いずれも「パニック値の緊急連絡が医師に伝わらなかった」というマニュアルの見直し、再点検が急がれる。または院内の仕組みに不備があった、スキがあったなど輻輳原因が想定され、結果として患者の治療が遅れた事例報告となった。
具体的には、「診察前の血液検査で患者の血糖値は800mg/dLで、本来ならばパニック値として医師に報告するところ、臨床検査技師は昼休憩の時間帯で人数が少なく報告を忘れた」事例1と、「臨床検査技師は外来で採血し入院した患者が、血清カリウム値がパニック値(6.4mEq/L)であったため、病棟看護師に報告したが、「病棟看護師は、主治医不在時の連絡方法を知らなかった」ため、医師に伝わらなかった事例2が紹介されている。
事例が発生した医療機関では、「検査値がパニック値であった場合の報告手順を院内に周知する」、「検査部はパニック値の連絡を行った際、検査結果、連絡者、連絡先医師名を記録に残す」、「主治医不在時の連絡・対応体制を構築して周知する」などの取り組みを実施している。
事例1の背景
患者の状態は診察前に実施した血液検査でヘモグロビン値が低下していたため、鉄剤を処方され、患者は帰宅した。診察時、血糖値は「検査中」と表示されていたが、実際は異常値で再検中であった。患者の血糖値は800mg/dLであったため、本来であればパニック値として検査部より医師に報告するところ、臨床検査技師は昼休憩の時間帯で人数が少なかったため余裕がなく連絡を忘れた。10日後、患者から「倦怠感がある」と電話があり、医師が前回の検査結果を確認したところ血糖値が800mg/dLであったことが分かり、入院となった。
事例 2の背景
外来で採血後、患者は入院した。患者は全身倦怠感があり、血圧80/50mmHg、呼吸促迫状態でSpO2が89%であることを病棟看護師は確認した。臨床検査技師は血清カリウム値がパニック値(6.4mEq/L)であったため、再検後に外来看護師に報告した。外来看護師より、病棟に直接連絡してほしいと依頼があり、臨床検査技師は病棟の看護師に報告した。病棟看護師は主治医が不在時の連絡方法を知らずパニック値が医師に伝わらなかった。
◆チーム医療の重要性など意見聴取 アレルギー対策協議会
今夏に「アレルギー疾患対策基本指針」策定に向け開催
――厚生労働省
厚生労働省は2月12日、アレルギー疾患対策推進協議会を開催した。協議会は2015年12月に施行された「アレルギー疾患対策基本法」にもとづき設置され、2016年夏に「アレルギー疾患対策基本指針」を策定することが目的。アレルギー疾患は、国民の約半数がかかっているといわれる“国民病”だが、医療の提供体制に地域差があるなどの課題が指摘されている。また、2012年には東京都調布市で、食物アレルギーのある小学生が給食後に死亡する事故が発生し、社会問題となった。
アレルギー疾患対策基本法は、昨年6月19日に参院厚生労働委員会で、審議を行い全会一致で成立した。翌6月20日の参院本会議で採決し全会一致で可決、成立した。国が進めるべき基本的施策としては、▽専門医や、専門知識・技能を持つ保健師、栄養士などの育成、▽学校の教職員などに対する研修機会の確保、▽相談体制の整備、▽予防や治療などの研究の推進▽大気汚染防止や森林の適正な整備など、省庁を超えた生活環境改善策――などを盛り込んだ。
この日は西間三馨参考人(国立病院機構福岡病院名誉院長)、海老澤元宏委員(国立病院機構相模原病院臨床研究センター アレルギー性疾患研究部長)、加藤則人委員(京都府立医科大学院医学研究科皮膚科学教授)、岸平直子委員(千葉市教育委員会保健体育課指導主事)から意見聴取を行った。
西間参考人はアレルギー治療管理には専門性の高いコメディカルによるチーム医療が重要だが、「保険診療上の点数化がなくインセンティブが働きづらい」と指摘。アレルギー疾患の専門的教育を受けたコメディカルとして、日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会認定の「アレルギーエデュケーター」を紹介した。患者教育を通して治療・生活管理の向上へ支援をしており、2015年5月の時点で看護師、准看護師、薬剤師、栄養士ら292人が活躍している。
海老澤委員は食物アレルギー・アナフィラキシー対策には、医療の均てん(霑)化や病診連携の推進、食物経口負荷試験環境の改善、診断方法改善と治療方法確立に向けた臨床研究が必要と指摘。そのうえで、「一般医への啓発活動」、「病診連携の推進活動」、「専門性の高い医療の提供」、「臨床研究の推進」などの機能を持った食物アレルギー対策拠点病院を、各都道府県単位で指定し、財政的に支援することを提案した。
岸平委員からは、千葉県の学校と消防機関との連携について紹介があった。千葉県では、アドレナリン自己注射を所持する児童生徒が在籍している学校と消防局が情報を共有。救急搬送時にはその情報を元に消防共同指令センターの医師が救急隊へ的確な指導・助言をすることで、迅速かつ適切な対応を図っている。