医療ニュース⑮
2016.02.29
◆全死亡例の報告、特定機能病院の承認要件に 社保審医療部会
未承認・高難度医療を実施する病院にも「努力義務」、承認
――社会保障審議会
社会保障審議会(社保審)医療部会が2月18日に開催され、全死亡例の報告などを義務付ける特定機能病院の承認要件の見直しが承認された。高難度の新規医療技術や、未承認医薬品等を用いる医療の実施に関して、新たな確認部門の設置などの規定が設けられ、特定機能病院以外でも、当該技術や医薬品を使用する場合は、同様の取り組みを努力義務とすることも承認された。特定機能病院の承認要件見直しは、群馬大学医学部附属病院や東京女子医科大学病院で医療安全事案が相次いで発覚してから本格的な議論が始まった。
この日は(1)特定機能病院の承認要件の見直し、(2)新たな専門医の仕組みの準備状況――などを議論。特定機能病院の承認要件の見直しについて方向性を了承した。
厚労省は群馬大学附属病院などで、医療安全に関する重大な事案が相次いで発生したことを受けて、「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」を設置して、特定機能病院の詳細な承認要件の見直しを検討した結果を説明した。
具体的には、管理者(病院長)は医療安全業務の経験を必須として、医療安全管理責任者(副院長等)を配置する。また、医療安全管理部門は専従の医師・薬剤師・看護師の配置を義務化して、内部通報窓機能のほか、事故等などの報告を義務付ける。さらに、外部監査と地方厚生局による立入検査も制度化する。
また、高難度新規医療技術・未承認医薬品等を用いる医療に関する要件は、特定機能病院・臨床研究中核病院では、管理者は実施の適否を確認する部門を設置。管理者はこのような医療を行う場合に職員が遵守すべき事項と確認部門が確認すべき事項を定めた規程を作成して、管理者は確認部門に対して職員の規定遵守状況を確認させることにする。
今回、厚労省は新たに、特定機能病院・臨床研究中核病院以外の病院で、高難度新規医療技術等を用いる場合、特定機能病院に対する規定を参考に同様の取り組みに努めることを省令で努力義務として課すことを提案した。さらに、全病院に対して通知で、高難度新規医療技術は学会の導入にあたっての「医療安全に関する基本的な考え方」を参考に実施することを病院の指針に明記し、未承認の医薬品などの処方の妥当性は学会ガイドライン等の医学的知見を確認することを病院の手順書に明記するとしている。委員から大きな異論は出ず、承認要件の方向性や努力義務とすることを承認している。
2つ目の議題である、新たな専門医の仕組みの準備状況―について出席委員から異論が相次ぎ紛糾し、下位部会の専門委員会設置と部会での議論の継続を決めている。
新たな専門医制度は厚労省の「専門医の在り方に関する検討会報告書」(2013年4月22日)で、第三者機関の日本専門医機構を設立し専門医の認定と養成プログラムの評価・認定を統一的に行うことを提言。高齢化に伴い多様な問題を抱える患者が増えており、1人の総合的な診療能力をもつ医師の診察が適切な場合があるため、「総合診療専門医」を新たに位置づけるとした。
今回、日本専門医機構理事長の池田康夫参考人らは新制度の進捗状況を報告し、「地域で研修して地域医療の経験を積むことの重要性」を専門医制度整備指針に明確に記載したと説明。研修施設群をつくる際に地域連携を推進して、「専門医制度地域連絡協議会」などの設置を求めて、地域で医師を育てる考えを強調していると解説した。
しかし中川俊男委員(日本医師会副会長)は「地域医療に配慮しているというが逆行しており、さらに医師が偏在する。地域包括ケアシステムと地域医療構想の構想区域に重大な支障が生じるもので、2017年4月からの開始は延期すべきだ」と強く反発。
邉見公雄委員(全国自治体病院協議会会長)も「どこの病院に行くかが決まってしまい、医療崩壊の先駆けだ」と語気を強めた。また、相澤孝夫委員(日本病院会副会長)は「専門医を専攻する医師の身分について、公立と民間を移っていった場合、一定の方向性を決めないと不公平な処遇となりうる」と懸念を示した。
荒井正吾委員(全国知事会・奈良県知事)が「地域連絡協議会は進んでいない。聞いたことがない。4月開始は拙速だ」と述べると、医療・病院関係の委員から不満の声が相次ぎ紛糾。議論はまとまらず、永井良三部会長(自治医科大学学長)の提案で、専門委員会の設置と同委員会・部会で引き続き議論することを決めて閉会した。
◆「小規模病院の看護管理能力向上を支援するガイド」作成
厚労省 研修受ける機会を病院規模で格差をなくすために
――厚生労働省
平成26・27年度の厚生労働科学研究費補助金地域医療基盤開発推進研究事業で、中小規模病院の看護管理能力向上支援について研究していた厚生労働省は2月23日、その結果を支援ガイドとして開発し公表した。ガイドの体裁は、A4版で40ページほどの小冊子でサブタイトルには「人をひつけ生き生きと地域に貢献する病院づくり」とある。厚労省は「中小規模病院の看護管理者はもちろん、病院長・事務長の方々や、自治体・職能団体・グループ病院などの外部支援者の皆さんもぜひ参考にしてください」と周知している。
なぜ今、看護管理者の能力向上は急務なのか―。ガイドの制作意図をたどっていくと、厚労省は「将来とも良質な医療を確保し、持続可能な医療提供体制を構築していくためには構造的な改革が進められ、地域での医療機能の機能分化や連携が求められている」ことが直接の動機としている。
一つには日本全国の病院8,493施設のうち、300床未満の中小規模病院の研修機会の現状に原因と対策がみえてくる。
日本全国の病院のうち300床未満の中小規模病院は、82%(6,965施設、平成26年度医療施設静態調査―厚生労働省調べ・2014)を占めている。今後、地域連携を推進しながら質の高い医療提供体制を構築するためには、この全国の82%を占める中小規模病院の看護管理者の能力向上が鍵となる。しかし、看護管理者が研修を受ける機会は病院規模で格差があり、特に中小規模病院の管理者は、時間的負担や研修参加のため代替職員を確保することの困難を理由に積極的に参加できないことが明らかになっている。
このような現状下で医療提供体制の変化、医療の高度化、複雑化に対応し、安全で安心できる医療の提供を行うためには、病院規模で起こる格差を解消し看護管理者の能力向上は急務となっている。
そこで今般、厚労省は平成26年度に行った中小規模病院の全国実態調査と先駆的な取り組みを行っている病院の好事例の調査結果を反映した看護管理能力向上の支援についてのまとめとしてこのガイドを作成した。院内からは病院長や事務部門長などから支援を得ること、院外からは自治体、職能団体、グループ病院等の組織が、このガイドを活用して支援をすることによって、中小規模病院の看護管理者の能力向上をめざすのが狙い。
さらにガイド制作編集上の特徴は、看護管理者自らが、看護管理実践のよりどころとなる知識として活用ができるよう構成した点だ。中小規模病院は、離職率が高い、新卒が来ない、職員の経験年数が高いなど、ともすれば短所としてとらえられがちな現状を、人の流動性が高い、経験が豊かな人が揃っているというような「特長」として、大規模病院とは見方をかえてとらえることにより、より一層、地域でその病院に期待されている役割を果たすことができるのではないか、と期待している。
ガイドに盛り込まれている、中小規模病院の看護管理者の能力向上に関する先駆的な組織における好事例は、現在も精力的に収集中で進行している。厚労省は「今後も多くの病院のヒントになるような知識を提供できればと考えています」と話している。
ガイドの内容(目次)
第1章 中小規模病院の看護管理者の能力・役割
1. 中小規模病院の看護管理者に求められる能力・役割―全国質問紙調査の結果から
2. 中小規模病院の看護管理者に求められる能力・役割―先駆的病院の看護部長へのインタビュー調査結果から
第2章 中小規模病院の看護管理者への支援方法
1. ちがう見方をしてみる
2. 人的資源の確保
3. 病院長・事務部門からの理解と支援
第3章 中小規模病院看護管理者支援体制
中小規模病院看護管理者支援モデル
ガイドの使い方
このガイドは、中小規模病院の看護管理者個人、病院長・事務長、自治体・職能団体・グループ病院等の関係者等の外部支援者を対象としており、第1章から第3章までを次のように活用できるよう構成してある。
第1章 中小規模病院の看護管理者に求められる能力・役割
看護管理者、外部支援者には活用する内容として、病院長・事務長は参考資料として活用する内容として
第2章 中小規模病院の看護管理者への支援方法
すべての対象者に対して活用する内容として
第3章 中小規模病院の看護管理者支援体制
外部支援者には活用する内容として、看護管理者、病院長・事務長には参考資料としての活用する内容として
◆社保審介護保険部会、介護保険制度の見直しスタート
次期制度改正に向け「主な検討事項案」 厚労省提示
――社会保障審議会
介護保険制度の見直しを議論する社会保障審議会(社保審)介護保険部会が2月16日に開催された。2018年度に控える次の制度改正に向けた協議を本格的に開始し今年末までに結論をまとめる。まず2017年の通常国会に介護保険改正法案を提出する予定で、この日が改正に向けた事実上のスタートである。
部会は冒頭に厚労省が介護保険を取り巻く状況を説明、75歳以上の人口が急激に増え、給付費や保険料の上昇が続いていくという将来像も改めて描かれた。続いて、最近の政府の動きを紹介した。昨年6月に閣議決定された「骨太の方針」を取り上げ、向こう3年の社会保障費の伸びを1.5兆円程度に抑えるという目安や、軽度者に対する介護の給付を見直すという記載が盛り込まれたと報告した。
最大の争点と予想されるのは、財務省からムダを指摘されていた軽度者への給付の削減、福祉用具・住宅改修の見直しだ。制度の持続可能性のためとして、厚労省は被保険者の年齢引き下げも論点にあげた。介護保険部会は介護保険制度のこれからを方向づけるための議論をする中核的な存在となる。すでに全国老人福祉施設協議会から「軽度者サービスの移行」に関する意見書が厚労相あてに届いている。
この日、厚労省から次期介護保険制度改正に向けた「主な検討事項案」が提示された。しかし検討項目に利用者負担や慢性期・介護ニーズ対応などが出たが、初回ということもあってか、具体的な中身には触れなかった印象だった。厚労省は介護保険制度の見直しにあたって、これまでの制度改正などの取り組みをさらに進めて、(1)地域包括ケアシステムの推進、(2)介護保険制度の持続可能性の確保――に取り組むことが重要と説明し、部会で今後検討する事項を提案した。
(1)では、地域の実情に応じたサービスの推進(保険者機能の強化等)を掲げ、「保険者等による地域分析と対応」、「ケアマネジメントのあり方」、「サービス供給への関与のあり方」を検討する。また、医療と介護の連携に関しては、「慢性期の医療・介護ニーズに対応したサービスのあり方」、「在宅医療・介護の連携等の推進」について議論する。現在、介護療養病床・医療療養病床(25対1)が提供している機能を担う新たな療養病床等の選択肢として、「療養病床の在り方等に関する検討会」がまとめた新施設類型を具体的に議論する見通し。
さらに、地域支援事業・介護予防の推進に関して、「地域支援事業の推進」、「介護予防の推進」、「認知症施策の推進」について検討。サービス内容の見直し・人材確保に関しては、「ニーズに応じたサービス内容の見直し」、「介護人材の確保:生産性向上・業務効率化等」を議論するとしている。
(2)では、給付のあり方に関して、「軽度者への支援のあり方」、「福祉用具・住宅改修」を検討することを提案。また、負担のあり方に関して、「利用者負担」、「費用負担:総報酬割・調整交付金等」を議論するとしている。このほか、保険者の業務簡素化(要介護認定等)や被保険者の範囲なども検討される見通し。
このように厚労省の主な論点は軽度者に対する給付や地域支援事業、ケアマネジメント、利用者の自己負担、認知症の支援、人材の確保などを議題に載せる考え。部会委員からは、軽度者に対する給付をさらに縮小する案に反対する意見や、人材の確保のために思い切った施策を打つよう求める声が多くあがった。厚労省は今後、来年の通常国会に介護保険法の改正案を提出する予定。年内にその内容を固めたい考えで、部会を月に1回から2回のペースで開き議論を深めていく工程を目論んでいる。
◆「軽度者向けサービス移行」の地域支援事業に懸念 老施協
厚労省 多くのサービスを地域支援事業に移行させる対案
――全国老人福祉施設協議会
全国老人福祉施設協議会は2月15日、「軽度者サービスの移行」に関する意見書を塩崎恭久厚生労働大臣と自由民主党に提出した。軽度者サービスの移行とは、財務省の財政制度等審議会から提案された軽度者向け介護保険サービスを地域支援事業へ移行するもの。
現時点での厚労省の対案は、軽度者に対する給付のあり方や利用者の自己負担、「総報酬割」の導入などを今後の論点として提示している。これまでの議論では、今より多くのサービスを地域支援事業に移行させたり、利用料を2割とする人を増やしたりする案が浮上している。
老施協は軽度者を介護保険制度のデイサービスの対象から除外することは、認知症利用者への対応を希薄化させるばかりか、家族介護を前提としかねない制度的リスクがあると批判。そのうえで、「改革が財政論に偏ったものになることに強い懸念と不安感を持っている」と述べている。老施協の東憲太郎会長は、政府が「介護離職ゼロ」に向けて打ち出した再就職の後押しなどの施策を取り上げ、「これで人材が確保できる、増えると言うのはかなり厳しい」と断じた。UAゼンセン日本介護クラフトユニオンの陶山浩三会長は、「根本の問題は処遇だ。先の人生に夢が持てない、という処遇に著しい問題がある。処遇が改善されれば人は自然と集まる」と主張した。
また、軽度者向けのサービスの必要に関して、愛知県大府市での認知症の高齢者が線路に進入して列車にはねられ死亡した事案をあげ、「亡くなった男性が要介護度4で介護者の配偶者も要介護度1と認定されており、双方が十分な介護保険サービスを受けられたなら、ある程度リスク軽減は図ることができた」と指摘。
さらに、生活支援部分を保険給付から切り離すことは早期対応を阻む可能性があるとして、特に認知症の独居高齢者の家事援助が期待できなくなり、在宅生活の維持が難しくなると懸念を表明している。
このため、国民誰もが安心して健康な暮らしを送るため、セーフテイネットを国民皆保険制度の介護保険サービスのなかで確保することを要望。また、地域支援事業への移行は今以上の自己負担を求めることになるとして、「福祉国家として低所得者にも安心の介護サービスを」と求めている。
日本経団連は軽度者への給付を縮小する案に前向きな立場をとっている。2月17日の社会保障審議会・介護保険部会で、委員のひとりとして協議に参加している阿部泰久常務理事は、「生活援助サービスのようなものをどう考えていくか。場合によっては地域支援事業の方で受け取ってもらえればと思っています」と述べた。
また同じく2月17日の社保審介護保険部会でも全国市長会の代表として委員に加わっている香川県高松市の大西秀人市長が、現場の人手不足を解消する施策を強化するよう厚労省に訴えた。大西市長は席上、「今の状況では、2025年に必要となる担い手を確保できるという見通しはまったく持てない。このままでは本当に解決できない」と危機感を強調。「業務の効率化や生産性の向上だけで(人材を)賄えるのかって、やっぱりそれはあり得ない」と指摘した。そのうえで、「財源の問題もあるが、その辺は本当に真剣に考えていかなければならない」と促した。
UAゼンセン日本介護クラフトユニオンの陶山浩三会長は、「根本の問題は処遇だ。先の人生に夢が持てない、という処遇に著しい問題がある。処遇が改善されれば人は自然と集まる」と主張した。